東京ドームもびっくり!?ネットが拓くライブビジネス革命

前回のエントリ「商業音楽がボカロ音楽に勝てない理由」は、いろいろ批判されるんじゃないかと思っていたが、反発こそたくさんあったが、とくに反論らしきものは見当たらない。


ということで、一番、目についたタイトルが釣りじゃないかという意見についてコメントする。僕の定義では、あのタイトルはぎりぎり釣りではない。


このあたりは個人の主観の領分でもあるが、じゃあ、ついでに僕がぎりぎり釣りだと思うタイトルを今回つけてみることにした。


僕の中での、釣りか釣りじゃないかの境界線は、前回と今回のタイトルの中間にある。*1 *2

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さて、CDが売れなくなってきたので音楽ビジネスはライブへ回帰するべきだという主張はよく見る。


この主張はいろいろ無理があるなと個人的には思っている。


やはり今日もめんどくさくなってきたので箇条書き。


・ そもそも日本ではライブツアーはアルバムCDのプロモーションのためにやってきたので儲かるビジネスになっていない。むしろ赤字だったりすることも多い。

・ ライブの赤字を埋めるのはスポンサー企業の協賛金だったが、最近は不況で協賛金などでない。つまりむしろ採算は悪化傾向にある。

・ ライブの規模が大きくなると舞台演出に金がかかるので、やはり儲かりにくい。つまり動員力が増えてもスケールメリットを出すのが難しい。


したがってライブで利益を出そうとすると現状よりもコストを抑えるか、ファンからもっとお金をとるかの2通りしかない。


前者の場合だと、舞台セットにかけるお金をけちってしょぼくする以外には、同じ会場で2Daysとか1日2回転とかさせて平均コストをさげるとかいう方法ぐらいだろう。


後者の場合だと、チケット代金をあげるとか、米国みたいにいい席は極端に高くするとか、会場でグッズをたくさん売ったりして客単価をあげるとかいう方法になる。


余談になるが先日ある音楽業界の重鎮とこの話題をしていて、ライブビジネスはこれからはグッズで儲けるしかないのに東京ドームとかは会場で販売するグッズは自動的に20%ぐらいのマージンを取る。こういうのをなんとかしないといけないという話を聞いた。プラットホームホルダーがコンテンツの分け前を虎視眈々と狙うのは、なにもアップルやアマゾンのようなネットだけの話でも外資だけの話でもないんだなと思った。


結局のところ、音楽ビジネスがライブに回帰するということが意味するのは、ライブが全体的にしょぼくなって、値段はあがるということだ。それが音楽ビジネスの未来というんじゃ夢がない。
そもそも、いまの世の中はたんにネットでコピーされるからパッケージが売れないなんてだけじゃなく、消費者の可処分所得が減っているという問題もある。ライブに行きたくても本当にお金がないというひとも多いだろう。残った濃いファンへの負担を増すだけの方向ではライブビジネスの裾野が狭くなるばかりだろうと思う。


CDを買わないですませるようになったひとも含めて、できるだけ多くのひとからお金を集める手段を考えることが必要じゃないだろうか。


じゃあ、どうすればいいか?


ネットが一番お金がとれない大きな世界で、しかも、これからも拡大していくのだから、ネットで課金する方法を模索するのが正しい態度だと僕は思う。


ネットでコンテンツがコピーされる時代には、ライブでしかお金が取れないというのを同意するとしても、ならば、そのライブにはネットでのライブも含まれてもいいじゃないか?


ここでみなさんが大好きなポジショントークのコーナーがはじまる。


日本でネットのライブに課金することに挑戦している人間がひとりだけ いる。今年のはじめ、ドワンゴ執行役員として入社した片岡義朗氏だ。彼はインタビューでネット で課金するライブモデルを成功させるためにドワンゴに入社したと答えている。彼のやっているネットライブはもっと評価されていい。


今年の8月末におこなわれたニコニコ大会議C.C.Lemonホールは、会場チケットが1700枚売れた(というか席が1700しかない)のに対して、ネットチケットと称するネットで視聴する権利が最終的に9200枚売れたらしい。


会場チケットが5800円で、ネットチケットが1500円だから、売り上げも4:6でネットチケットのほうが多い。


これは相当に画期的なことだ。世界的に見てもインターネットで有料でライブを試聴させるというのはほとんど成功例がない。近年では、みんな諦めたのか、インターネットでライブを放送するのは無料と相場が決まってきた。


Youtubeに無料のライブ映像なんていくらでも転がっているのに、2時間ちょっとの映像をネット経由で見るのに1500円をとるというのは大変なことだ。


ニコニコ生放送でネットチケットがまがりなりにも成立しているのは、コメントが生み出すライブ感覚が原因だ。これまでのインターネットライブ中継やスカパーでのPPVだと、映像が垂れ流されているだけなのでライブ感がまったくない。実は生放送じゃなくて、一週間前の録画ですといわれても見分けがつかないだろう。


mixiの日記でネットチケットを購入したひとの多くが、「今回のニコニコ大会議はネットチケットで”参戦”」と書いていたことが興味深い。視聴するとか、見るとかじゃなくて”参戦”なのだ。ネットであってもライブに参加しているという感覚を生み出せているのがすごい。ネット視聴に1500円払ってもらうだけでも画期的なのに、払った人の満足度も総じて高い。ネットチケットという概念が普及してお金を払うことへの抵抗感が薄れていけば、数十万人規模のネットライブという世界もいずれ実現するだろう。


ネットライブというのが普及したときにライブビジネスはどう変わるだろうか?


ここでも箇条書きしてこのエントリを終わることにする。


・ ライブビジネスのリスクが減り、利益率もあがる。

・ 会場と違いネットでは席をいくらでも増やせるので、人気のあるライブであれば青天井で利益がでる可能性がでてくる。

・ 東京ドームやさいたまスーパーアリーナなどでライブをやるよりも小さいライブハウスやせいぜい武道館などでネットチケットを買うユーザを増やしたほうが利益を出せるようになる。

・ 将来的には舞台セットにお金をかけるよりもネットライブ用の演出にお金をかけるという動きがでるだろう。

・ 将来的には、よりライブ感覚を演出するための双方向イベントが発達し、ネットチケットなのに人数制限がでてくる可能性がある。

・ 将来的には、バーチャルなペンライトなどでアイテム課金型のモデルが成立する可能性がある。


以上。

*1:ついでにタイトルの字面だけを見て、音楽に勝ち負けをつけるのはどうかという脊髄反射的なコメントをしているひとも多数みかけたが、本文も読めば分かるように商業音楽とボカロ音楽のどちらが音楽として優れているかという話をしているわけじゃなく、ネット時代にどちらが広がりやすいかというのがタイトルに込めた意味だ。

*2:まあ、本当の趣旨というかやりたかったことは、最初に書いたニコニコ動画は政治と宇宙が中心のサイトという強弁であって、ボカロうんぬんは記事としての体裁をととのえるための付け足しだったんですが。(だから、最初、記事をあげたときに面倒になって途中で書くのをやめた)残念ながら冒頭のネタがあんまりうけずに、つけたし部分への反応が多かったので、記述を補足して完成させました。