理系出身企画者がお金を獲得するためのビジネスプランの例

新しい企画を立ち上げるときに必要な投資を会社からひっぱりだすのは大変だ。上司はOKしても管理部門がいい顔をしないといろいろとめんどくさい。


そういうときに要求されるのがビジネスプランだ。バラ色の予想を書き殴った事業計画書を作文するとお金をかなりの確率で出してくれることに世の中ではなっている。


えっ?いくら事業計画をだしても通らない?あー、それは君の政治力が不足しているからだ。君の事業計画の中身もきっとクソだとは思うけど、それは企画が通らないこととはあまり関係ない。


世の中で通る企画とはどれだけ政治力のある人間が賛成するかで決まる。政治力とは社内的な立場の強さだったり、声の大きさだったり、ねちっこさだったり、だれと仲がいいかなんかで決まるパラメーターだ。企画の中身はどうせだれも判断できない。


とはいえ、だれも本当の一番大事なところは判断できない事業計画であっても形式的な審査はある。ようするに計画の上でも儲からない企画は、だいたいの会社はお金を出すのに反対するひとたちがいるというシステムになっているのだ。そこで今日はそういう場合に、理系出身の企画者がどうやってお金をひっぱりだすかの例を紹介する。


え?文系出身の企画者はどうすればいいかだって?そんなのは簡単だ。文系出身者は合理的だから、望む結果から逆算した事業計画をつくればいいだけだ。みんなが望む結果とは少なくとも3年後とか5年後には投資を回収して利益をじゃんじゃんだすような状態になることだ。そのために必要な売上を逆算して、そこに向かってぐいぐい右肩上がりで伸びていくグラフをつくればみんな納得してくれる。すぐに結果がばれてしまう最初の1年だけは現実的な数字をいれるのがこつだ。2年目から急上昇!これで間違いない。


問題は小心者の理系出身の企画者だ。彼らは気が小さいのでどうしてもウソがつけない。ちょっと背伸びをするぐらいのウソが関の山で、ハッタリをきかせられない。どうしてもなにか根拠のあることでないと自信をもって説明できない困ったちゃんなのだ。というわけで今回は参考のためにぼくが昔、着メロサイトをつくったときにどういう理屈でもって会社から金をひっぱったかを紹介しようと思う。


ケース1 机上の空論の段階でのお金のひっぱりかた


本当に儲かりそうなビジネスプランを見つけても他人がそう思うかどうかは別問題だ。ぼくは、その当時、携帯キャリアに着メロサイトをつくることを認めてもらえば必ず儲かるということを確信していた。さて、そういうときにどういう風なビジネスプランをつくって社内に説明すればいいだろうか。


まずは投資する金額を決めなければいけない。実は机上の空論の段階が一番投資するお金を会社から引き出すのが簡単だ。なぜ簡単かというとまだ机上の空論の段階ではあまりにも空論すぎるのでいくら投資するのが適切かの判断がまったくできない。いったんビジネスがはじまってしまうといくら儲かりそうかだいたいばれてしまうので、いったん儲かってない事業に追加投資をさせるのはとても大変な作業になる。だから、最初の段階でいくら予算を獲得するかはとても大事だ。ぼくは想定予算をその当時に会社がなんとか出せそうなぎりぎり最大限の金額に設定した。そして実際に使うときはけちけち使う。これが重要なポイントだ。最初の投資金額が多いと全体のプロジェクトが肥大化し、ますます採算がとりづらくなる。かといって必要な投資を必要なタイミングでできないのは自動的にプロジェクトが失敗するので最悪だ。予算は大きめで実際には使わないという姿勢が有効だ。次に目標売上の設定だ。ある分野に新規参入する場合どんな業界でも上位1社、よくて2,3社しか儲からないとぼくは思っているのでやる以上は最初からトップを狙うのが当然だが、そんなことをいっても信用度が下がるだけだから、ぼくは目標を業界15位ぐらいに設定した。15位ぐらいでも着メロビジネスは十分に儲かるのだということを力説した。本当に儲かると思っているなら、目標をみんながなっとくする最低レベルよりちょっと上ぐらいに抑えたほうがいいだろう。あまりにバラ色すぎるとそれだけでみんな信じなくなる。事業開始したあとの展開も目標が低いほうが自由度が高い。


ケース2 事業拡大時の追加投資の説明


サービス開始して予想以上に順調に会員が増大した。ようやく初期投資は回収できそうだ。でも、そんなときにダブルアップで勝負したくなるのがギャンブラーというものだ。着メロビジネスの場合はまだ月間の売上が1億5000万円のときに1億円ほどをかけてテレビCMを開始した。しかもうまくいったら毎月やると宣言してはじめた。売上から考えると明らかに過大投資だ。そのときにその合理性をみんなに説明するためにでっちあげたのが潜在限界会員数という考え方だ。潜在限界会員数とは、いまのままの勢いがつづくとやがて到達して増えも減りもしなくなる会員数だ。目先の現在の会員数のかわりに、この潜在限界会員数をもとに投資金額を決めてもかまわないとぼくは主張した。ちなみに、その後、競合会社から転職してきたある社員も同じ計算式を自分で発見していたようなので、わりと一般的に知られているモデルである可能性もある。潜在限界会員数は入会者と退会者が釣り合う会員数なので次の関係式が成り立つことから求められる。


月間入会者数 = 月間入会者数 * 当月退会率 + 潜在限界会員数 * 継月退会率


当月退会率とはその月に入会してひとがその月内に退会する割合だ。継月退会率とは前月までに入会していた会員、つまり前月の月末の会員数のうち、その月に退会したひとの割合になる。これは退会率が入会した月だけが異常に高くて、それをのぞいた毎月の退会率はほぼ同じであると近似してもかまわないという性質を利用している。そして当月退会率と継月退会率はサイトによって固有の値となって、大きくは変動しないという特徴がある。そして毎月の入会者数もまた大きくは変動しない。つまり、月間入会者数、当月退会率、継月退会率の3つがそのサイトの実力を現すもっとも重要な数値であり、その3つからそのサイトが最終的に落ち着く会員数の規模が計算できることになる。例として毎月の入会者数が120,000人で当月退会率が25%、継月退会率が10%のサイトの場合の潜在限界会員数は900,000人になる。いまの会員数は関係がなくて、いずれ90万人に近づく。であれば今90万人いて2.7億円の売上があると思ってお金をつかっても一時的なキャッシュフローさえ確保すれば問題ないというのがぼくの理屈だ。


ちなみにこの潜在限界会員数という考え方はとても便利だ。有料会員サイトの運営とは、目先の現在の会員数よりも、この潜在限界会員数を増やすゲームだと思ったほうがいい。広告などのプロモーションは入会者数をふやすが、退会率には直接の影響は与えない。また、サイトの更新頻度とかコンテンツの充実は入会者への影響は間接的だが、退会率は減らす作用がある。入会導線をわかりやすくするとライトユーザが増えて入会者は増えるが当月退会率は上昇する場合がある。などなど、マーケティング定量的に考える場合にとてもこのモデルは役に立つ。


ケース3 一見、不必要な投資の説明


とくに劇的に入会者を増やすわけでもなく、退会率が減るともとてもいえそうにない。でもやりたい。やらねばならないような気がなんかする。そんな企画をどうやって通すべきか。こういう場合はよりひどい無駄で効率の悪い支出と比較するのがいいだろう。たいていの場合それは広告費だ。CMというのは麻薬でやりはじめるとなかなかやめれなくなる。だいたい効果があるのは最初だけでだんだんと費用対効果が悪くなっていくのだが、そもそも費用対効果がよくわからないままおこなっているのが世の中の広告というものだ。そういうどれぐらい効果があるかわからないけど絶対に必要だと思われているものの費用は、売上の10%とかいうかんじで枠が設定されていることが多い。つまり予定されたプロモーションの費用として原価に組み込んでしまうのがいい。サービスのブランドイメージをつくるための必要支出だと定義して言い切ってしまうのがいい。管理部門というのはコントロールできない支出を非常に嫌がる。原価として割合がはっきりわかっているとコントロールされているかんじがすごくして安心だ。別に減らすのであれば年度ごとにそのパーセンテージを減らせばいいのだ。


まあ、でもこれはだれがなにをやるかが大事だよなー。ぼくもほかの社員がこういうのをやっていて自由にお金をつかいまくっていたら怒る気がする。でもそれは中身を判断できるひとのはなしで中身を最初から判断できないひとは比較的安心しやすいスキームだ。


以上、3つのケースを紹介した。書き終わって、あんまり理系文系関係なかった気もするが、気にしないでいただければ幸いだ。