いいベンチャーの企画ってなんだろうと考えた

先週、札幌のIVSというイベントでベンチャー企業が自分のサービスをプレゼンするLaunch Padというのがあったのだが、これが予想以上にレベルが高くて素晴らしかった。日本のベンチャーもなかなか捨てたもんじゃないし、これから可能性がまだまだあるかもと認識を改めた。


というわけで彼らのプレゼンをみていて思ったことを書いてみる。


ベンチャー企業にとって、いい企画とはなにか?価値のある企画とはどう定義すればいいのか。とか、いうことを考えてみたのだ。


結論を先に書いちゃうと、今回、こういう場での企画の善し悪しの判断は、斬新さ、リアリティ、プレゼンの3つの要素だなと思った。そしてこの3つはお互いに依存関係にあり、どれかひとつあるいはふたつだけあればいいというものでもないということだ。


そして、この3つの中でもっとも難しいのがリアリティである。Launch Padのレベルが高いとぼくが思ったのは、このリアリティのレベルが高かったからに他ならない。リアリティがないと斬新な企画であっても魅力的には思えないし、いくら素晴らしいプレゼンをしていても心を打たないのだ。


ではリアリティとはどういうものなのか、リアリティをどういう場合に人間は感じるのかについてのパターンは一通りではなく、いくつかある。ちょうど今回の同率1位のクラウドワークスとV-sidoが非常に対称的な例になっているので説明をしたい。


まずはクラウドワークスである。クラウドで待機している時間労働者に仕事を発注できるというアイデアは独創的であり、類似のサービスはない。うまくいけばマーケットの大きさも結構ありそうだ。ただ、これだけで斬新な企画だと感心するほど人間は甘くない。本当にそれでビジネスが回るのか?そちらに興味がいく。するとすでにそれで多数の案件が決まっていて、ちゃんとサービスが成立しているという見事なプレゼンテーションがおこなわれる。そこで一挙にこの独創的なビジネスモデルにリアリティが与えられ、素晴らしいサービスに思えてくるのだ。


もうひとつの同率1位の片方であるV-sidoについてはどうだろう。プレゼンは素晴らしかった。ワクワクした。ぼくもこれが今回のナンバーワンだと思った。なぜ、ナンバーワンだと思ったのかを自分でも自答してみたのだが、やっぱりこういうベンチャーの企画というのは人々を驚かせ、すごいと思わせる、なんだかよくわからないけど可能性を感じさせる、そういったことがもっとも重要なのだろうと思う。ところが、こちらのほうはクラウドワークスとくらべてビジネス的な実績はない。いまつくっているロボットについての説明で、それがどれぐらいのニーズがあり、儲かるのかがさっぱりわからない。でも、このプレゼンテーションに多くの人はリアリティを感じた。それはなぜかというと、技術とノウハウが本物に見えたからだ。たんにアイデアだけ面白いことを思いついたわけではなく、十分に先行者メリットがあるだろう蓄積をプレゼンテーションによって感じたからだ。同様のサービスとしては入賞しなかったが、ChatPerfというものも非常に面白く可能性を感じた。


斬新さという意味ではクラウドワークスほど独創的なサービスではなく、すでに既存の類似サービスがあるものについてはより高いレベルのリアリティが要求されるだろう。類似サービスがあるなか、どういう差別化をおこなっていくかという説明は、やはりそれで結局ユーザはついているのかとかいうなんらかの実績がないとリアリティを持たない。そんな競合のすでにいるEC分野でのWhytelistやチケットストリートがきちんと現時点での実績をそれなりの説得力をもってプレゼンテーションしていたのは印象深かった。


プレゼンテーションされた多くは実サービスとして稼働しているものが大半だったが、まだ、実際には運用されていないサービスもあった。一位のV-sidoもその類ではあるが、他にはMatch AlarmやSmarty Smileなどがある。まだ、現実にないサービスだととりあえずはプレゼンテーションが面白くないと話にならないが、このふたつはその点では合格点だったといえる。特にMatch Alarmは会場の反応だけでいえば、一位のV-sidoに匹敵する評判を得ていた。まだ実ユーザがいないサービスだといくら斬新なアイデアで面白そうに見えても、要求されるリアリティの高さはより厳しくなるのは当然だろう。Match Alarmは理想の出会い系サイトとして会場の評判は良かったが、あれだけ男性に都合のいいシステムで女性ユーザがサクラなしに成立するかどうかは実際にサービスみてみないと判断は難しいというのが正直なところだろう。Smarty Smileについては着眼点は悪くないにしても、本当にそれでクリティカルマスを超えるカレンダーサービスになるかどうかの道筋についてはプレゼンテーションでは明らかになっていない。むしろリアリティのあるマーケティング手段でもはっきり分かっていたほうがいいだろう。


というわけで以上を簡単にまとめるとリアリティの必要度の高さで比較すると


  独創的で競合のいないサービス < 競合はいるけど、差別化するアイデアがあるサービス


  すでに運用されているサービス < まだ運用されていないサービス < アイデア段階のサービス


という関係があり、


リアリティをどうやってもたせるかについての方法については


  すでに運用されているサービスの場合 −> どれぐらい使用されているかの実績


  まだ運用されていないサービスの場合 −> 技術力やノウハウの蓄積量


  アイデア段階のサービスの場合 −> とにかく難しい。


といったところだろうか。


とにかく札幌でのLaunch Padはたいへんに面白かった。