かわんご回顧録 ドワクエ戦記その2 飛翔編


社内でブラウザ三国志がもりあがるにつれ、目に見えて業務に影響がではじめた。特に連日何度も戦略会議が開催されていた開発部隊のパフォーマンスの低下は深刻だった。


かわんご:「今日の経営会議、微妙な雰囲気だったね。なんかいいたそうな沈黙を感じた」


toshoboy:「僕の方にはブラウザ三国志いつまでかわんごはやるつもりだって相談にきていますよ。これはかわんごからの業務命令だといってブラウザ三国志をしている社員がいて注意できなくて困っているそうです」


かわんご:「それはいかん。仕事の合間にこっそりブラウザ三国志はやるのはいいとして、義務感でゲームをするのは真面目にゲームをやっている人間に失礼だ。」


さっそく社内にブラウザ三国志は業務じゃないとおふれをだした。あわせてブラウザ三国志につかっていいのは給料の20%までにすべしという20%ルールも設定した。

平和を愛するドワンゴ同盟


ドワンゴ同盟の結成はネットでも話題になり、多くの参加希望者が殺到した。最初の同盟レベルではひとつの同盟には20名しか参加できないため、支部をたくさんつくることとなり、あっというまに第7支部までできた。この時点でプレイヤー人数だけなら第9サーバで最大になった。早くもmixiの日記やブログ、2ちゃんねるなどで第9サーバはドワンゴ同盟がトップになるのではないかと予測するひとが何人もあらわれた。


盟主かわんご:「天下統一に向けて順調なスタートではないか」


軍師Masake:「いや、天下統一は無理です。AQインタラクティブのゲーム設定が難しすぎて、ブラウザ三国志の歴史で天下統一を果たした同盟はひとつもありません。でも、まあランキング一位の同盟は十分狙えるでしょう。」


盟主かわんご:「早く戦争したいんだけど、となりの同盟攻めていい?」


軍師Masake:「やめてください。そもそも車をつくらないと拠点は落とせません。どこの同盟にも所属してない独立君主は問答無用でいくらでも攻めていいですけど、よその同盟をむやみにせめると悪評が広がるし、特に序盤の同盟間戦争は損です。」


はやく戦争して自分のRやSR武将を使いたいD社の社員に熟練プレイヤーの原住民達が必死に平和の大切さを説いた。


「みてください。他のランキング上位の同盟のプロフィール。たとえば、これ、ほら、農耕を中心にやっていきますとか、白々しいことを書いてあります。こういうのが一番危険なんですよ。どのタイミングで牙をむくか狙っているに決まってるんですけど、最初から好戦的だと、他の同盟から標的にされやすいので、こういうふうに猫をかぶっているんですよ。全員を敵にまわしては絶対にこのゲームは勝てないですから、序盤は敵をつくらないで、いざというときに味方になってくれる同盟をつくることが大事です」


原住民達はそれぞれ周辺の有力同盟との外交役をかってくれ、紳士的なやりとりで平和を愛するドワンゴ同盟としての信頼関係の構築につとめてくれた。


一方、周辺の独立君主に対しては、罵倒の書簡をおくりつけながら、領地をひとつものこさないでつぎつぎと占領し、配下同盟を増やしていった。


かわんご:「そこまでやんなくていいんじゃないの?評判大事なんじゃないの?」


Masake:「なにいってんですか。相手によって臨機応変に対応が変わるのはビジネスの基本です。中途半端にやるとゲームの中盤とかに反抗してくるので、このサーバでゲームをやる気をなくすぐらいに徹底的にやらないと禍根をのこします。相手もあきらめてすぐに他のサーバにひっこしできるのでお互いのために無駄が省けます。独立同盟はひとりですから噂も広がらないから安心ですよ」


ドワンゴ同盟はメンバーが初心者が多かったこともあり、最初、同盟ランキングは低かったが、配下同盟の数だけは2番目の同盟の10倍以上はあった。そうしてドワンゴ同盟の名の下に平和な地帯は拡大していったのである。


かわんご:「われわれはひょっとしてとんでもない恐ろしい怪物を味方にひきいれたのかもしれん」


Toshoboy:「さすが廃人軍団は健在ですね」

ドワクエ9同盟の発足


われわれは第9鯖クエスト平和同盟という、まさに平和を愛するドワンゴ同盟にふさわしい相手と合併をおこなうこととした。


ドワクエ9同盟の誕生である。


合併の目的は勢力拡大のためパートナーが欲しかったのと、合併にともない「ドワンゴ同盟」という名前を変更したかったからだ。


かわんご:「天下統一の大義のためには、これから非道な行いもたくさんやらねばならん。たくさん恨みも買うだろう。そうすると、いまのドワンゴ同盟という名のままでは無関係の第三者に迷惑がかかってしまう」


聞くところによると、われわれの同盟とまったく同じ名前のちんけなIT企業が日本橋浜町にあるらしい。


キチガ・・・いや、心に傷を負ったひとでも優秀であれば雇い入れる優しい企業だという。


かわんご:「われわれの進むは修羅の道。悪いイメージがつくのは、われわれ自身とスクエニだけでいい」


ドワクエ9の命名の裏にはそんな悲壮な決意が秘められていた。


しかし、しばらく後に、そのスクエニから手痛いしっぺがえしがくることになるとは、そのときは、だれも気づいていなかったのである。

聖なる王家の血


組織力で勝負をめざすドワクエ同盟にとって情報戦は非常に重要なテーマだった。
リアルタイムな情報交換の場としてIRCサーバに常設チャンネルを設置し、同盟掲示板には参考にすべきブラウザ三国志関連のウェブサイトの紹介や、戦争のノウハウなどが書き込まれた。


軍師Masake:「つぎは同盟員の位置を把握することが重要です。地図をつくりましょう」


地理に明るい原住民のbangがさっそく全同盟員の座標をプロットした地図を作製して公開した。この地図は定期的に更新され、戦争の前には敵同盟の場所もかきこまれた特別版が配布されることとなった。


最初の地図が配布されたときに問題点がひとつ見つかった。


軍師Masake:「これはまずい。盟主のまわりに味方がひとりもいない」


第9サーバが開始したときにアカウント作成時刻がばらばらになったのがこんなところで影響したのである。


軍師Masake:「ブラウザ三国志の戦争とは盟主を守るゲームです。盟主のまわりに味方がいないのは戦争において決定的に不利です」


盟主かわんご:「んー、じゃあ、だれか別の人に盟主を交代しようよ。盟主めんどくさいし」


gensan:「殿、なんてことを。殿が盟主でないとドワクエ同盟の意味がありません」


軍師Masake:「他の同盟であれば戦争で危なくなったら盟主を交代するのは普通ですが、ドワクエ同盟はそれはできません。なぜなら他の同盟の盟主は民主主義、つまり人間が決めていますが、ドワクエ同盟の盟主の地位は神から与えられたものだからです。神が決めた盟主を人間が変えることはできません。」


盟主かわんご:「なんと、聖なる王家の血がわたしに流れているというのか!」


かくして、わたしは盟主の交代をあきらめ、隣接している「愛」同盟と「のんびり」同盟のふたつと友好関係を結ぶことを外交課題とした。

反ドワクエ同盟の動き


スタートダッシュを狙ったもののなにしろブラウザ三国志に関しては素人の集まりだったので、当初のドワクエ同盟の順位はそんなに高くはなかった。なにしろブラウザ三国志の序盤は討伐を多用して資源を稼ぐということもしらなかったし、最初のチュートリアル終了後のクエストを順番にこなすことで、資源がもらえたりしてゲームの進行が早くなるというのも知らないプレイヤーばかりだったからだ。


しかし、衰えたりとはいえ、元ヘビーゲーマーばかりのドワクエ同盟は急速に原住民の手ほどきでブラウザ三国志の最先端のノウハウが蓄積していき、それにつれ同盟順位もあがっていった。個人ランキングのトップ1ページ目の3分の1以上がドワクエ同盟の所属となった。ついに同盟ランキングも1位の魏武、2位の土佐につづいた3位にまで上昇した。


ブラウザ三国志の外交は相手によって態度が変わるのはいずこも同じだ。どの同盟もドワクエに対する外交書簡は、とても丁寧で敵にまわしたくないという意思がかんじられた。ところが、例外が2つだけあった。当時同盟ランキング1位と2位の魏武と土佐である。とくに魏武のひとりはドワクエのある同盟員の本拠地の隣接の占領を1週間もつづけていた。魏武の盟主に抗議をしてもいっこうに撤退する気配がない。


軍師Masakeが進言する。


Masake:「どうも土佐と魏武に舐められています。明らかにドワクエに対して快くおもっておらず、噂によると他同盟にもよびかけて、反ドワクエ連合をつくろうとしているようです。ここは戦争しかありません。」


その当時、ドワクエはいくつか領土紛争を抱えており、いずれも土佐か魏武のどちらかが絡んでいた。挑発しているのかもしれない。


かわんご:「でも、早い時期に戦争するのは損だっていっていたじゃん」


「まあ、そういっていましたけど、考えが変わりました。外交でいちど舐められると今後がしんどくなります。ドワクエは武闘派だと一目おかれる存在にならないといけません。現在一位と二位の同盟ふたつを同時に敵にまわして滅ぼせばわれわれの武勇は一度に知れ渡り、第9サーバでわれわれと敵対しようとする同盟はでてこなくなるでしょう」


「一位と二位の同盟ふたつと同時に戦って勝算あるの?」


「われわれの原住民部隊の実力を見くびってもらっては困ります。mixi第9サーバごときに第一サーバから延々と戦ってきたわれわれに対抗できる熟練プレイヤーがいるとは思えません。楽勝でしょう」


つづいてMasakeはいまここで戦う利点を述べた。


・ ゲーム開始2週間で、いきなり大規模な戦いをはじめるなんてのはブラウザ三国志の歴史でも聞いたことがない。まず、だれも予想していないから相手は準備できないだろう。


・ 突然、近所にわれわれの砦が数十個も生えてきたら、土佐、魏武だけじゃなく、第9サーバ全ての同盟が驚愕する。この時期にそこまでの同盟員を統制とって動員できる同盟なんてないから、ドワクエと戦いたいと思う同盟は今後いなくなる。


・ ドワクエの弱点は素人が多いこと。早期に戦争をおこなって経験を積ませてレベルアップをはかりたい。


・ 戦争がないとみんな飽きかかっている。最終的にはアクティブ率の高さが勝敗を決めるから、このあたりで戦争をおこなって脱落者を減らしたい。


・ また、戦争によりいったん資源の成長が遅れるが、敵の育てた拠点を奪えばかえって成長が加速するから問題ない。


結局、この作戦は実行されることになり、本拠地のつぎにつくれるようになったふたつめの拠点をいきなり攻撃用の砦にすることにきまった。早速、戦場付近の地図をbang氏が作成し、全員で共有された。

作戦の参加者に開発を中止して資源を貯めるように指示がされた。攻撃砦ができた瞬間に剣兵と車を量産するためである。この時期だと騎兵や槍兵などの中級兵よりも鍛冶屋でスキルアップした剣兵のほうが強いとのことだ。


足場になる領地はクエスト平和同盟から提供してもらい掲示板などでだれがいつどの場所をとりにいくか綿密に計算された。


そして数日後、一夜にして砦がたけのこのように乱立し、森となった。12月2日に第9サーバがスタートしてから、まだ、2週間しかたっていない12月16日のことだった。


ドワクエ同盟の歴史で最初の戦い、そして唯一の敗戦。もはや伝説となった土佐・魏武連合との大戦争、第一次許昌大戦の幕開けである。