かわんご回顧録 ドワクエ戦記その3 死闘編
許昌の南東に突然ドワクエの砦が30個以上も建ったのは壮観な光景だった。たちまちにうちに第9サーバ中にこの事件の噂が広がった。
Masakeの計略により、どの同盟にも一切の事前説明をしなかった。
軍師Masake:「いま、まわりにいる同盟はいったいドワクエがなにをするつもりだろうと疑心暗鬼になっているはずです。砦はたちましたが、これから剣兵と車を量産しないといけないので、準備ができるまで、しばらく放置して不安に思わせておきましょう。主力プレイヤーがだいたい車を100台つくったら戦争を開始しましょう」
ドワクエ同盟は砦の施設は課金で建てるのが基本なので事前に資源を貯めていたこともあり、あっというまに宿舎と練兵所、鍛冶屋、兵器工場が建設される。レベルが上がるのにも資源さえあれば、必要時間はマウスのクリックに必要なだけだ。主力プレイヤーが車を100台と剣兵500〜1000を揃えるのに2日もあれば十分だった。もちろん剣兵の武器は最高レベルまで鍛えられている。
2日目、Masakeは外交を開始した。まずビフテキ同盟に書簡を送る。敵意はない旨ということと不可侵同盟を結ばないかという打診である。この周辺にいる同盟でランキングはそれほど高くないがMasakeはビフテキを一番警戒していた。領地の囲い方とかを見るに、ある程度の熟練者の同盟だと予想しており、敵として参戦されるとやっかいだと判断していたからだ。
ビフテキ同盟は自分たちが標的ではないことに喜び、すぐさま不可侵条約の締結に合意した。
軍師Masake:「味方にする必要はありません。土佐、魏武以外の有力同盟が中立にまわってくれれば十分です」
土佐、魏武は既に自分たちが標的であることを予想していたのだろう。ドワクエ同盟には書簡などはこなかったが、活発な外交活動をおこなっており、土佐、魏武に加えて、北東天下一、m-SRFVの上位4同盟で急遽四大同盟を結成し、相互防衛条約の締結を宣言した。土佐、魏武と戦争すると四大同盟と戦争になるという牽制である。
あまり敵が多くなるといくらなんでも勝てない。
軍師Masake:「いままでブラウザ三国志で1年以上戦ってきた経験からいって、こういう相互防衛条約なんてまったくあてになりません。いざ現実の脅威を目にすると、しょせん他人事ですから、なんだかんだ理由をつけて絶対に機能しないものです」
果たしてm-SRFVと北東天下一に外交書簡をおくり土佐、魏武と戦いをおこなう事情を説明するとどちらもドワクエ同盟の立場を理解し、土佐、魏武からの援軍要請を断り中立を守ることを約束してくれた。事実上、四大同盟は結成とほぼ同時に崩壊していたことになる。
また、Masakeは謙虚な変態達という少人数の同盟ながら土佐、魏武に戦いを挑んで滅ぼされた同盟に目を付けた。
軍師Masake:「この謙虚な変態達のちえみというプレイヤーに連絡をとってみましょう。同盟プロフィールなどを見るに、土佐と魏武には高圧的な外交をされて戦争になって滅ぼされたみたいで、相当、恨みをもっているようです。きっとわれわれの力になってくれるでしょう」
ちえみは既に土佐の配下にされてはいたが、土佐を攻めるに戦略的にも重要な場所に領地をもっており、すでにドワクエが土佐、魏武と戦争するのを見越して、領地名を「ここから攻めてね(はあと)」とかに変更していた。
また、土佐、魏武の同盟員からも書簡がいくつも届いた。内部情報を提供するから味方にしてくれというものだ。
盟主かわんご:「なんということだ。日和見、裏切り、内応……ゲームなのに、まるで現実世界のようではないか。面白すぎる」
軍師Masake:「結構、みんな時間をかけて自分の国を育てていますからね。感情移入しちゃうんですよ。自分の身がかわいくてしょうがないんです。」
そしてドワクエ同盟の軍勢の快進撃がはじまった。
ここでドワクエ同盟の当時の主力プレイヤーを紹介する。
Masakeが勧誘活動をおこなっていた原住民達は基本的に勇猛果敢で強力な戦士たちですが、多くは課金プレイという文明の恩恵とはほど遠い暮らしをしている。ところがそういった原住民の中にもフィリピンのマルコス一族やインドネシアのスカルノ一族のように莫大な富をもったプレイヤーも存在した。彼らは24時間戦える原住民の戦士の特徴をもちつつ、課金による文明の力も使えるという、まさに打撃もグラウンドも両方極めたヒョードルのようなパーフェクトソルジャーだ。
パーフェクトソルジャーの代表はDailol氏とKSK氏のふたりだ。世間的にはドワクエ同盟でだんとつ一番に課金しているのは私、つまり盟主かわんごだと思っているひとが多いが、たぶん、かわんごは3番目だ。Dailol氏とKSK氏のほうが間違いなくお金を使っている。ドワクエ同盟には最終的に、この3人以外にも累計100万円以上つかっただろうプレイヤーは少なくとも2人いて、10万円以上使っているプレイヤーなら何十人かはいたんじゃないかと思う。この課金プレイヤーの層の厚さがドワクエ同盟の特徴だ。
ドワクエを代表する重課金プレイヤーDAI
DAI氏(ドワクエではDailol)はネットゲームでは有名な重課金プレイヤーだ。彼の素性は謎につつまれているが、とにかくいくらでもお金を注ぎ込むプレイスタイルで知られている。おもしろいことに、実は彼がネットゲームでお金をつかいまくるのは金銭感覚が狂っている訳じゃなく、倹約だという話がある。ネットゲームをしないと六本木やら銀座やらに飲みにいって一晩100万円とか平気でつかってしまうので、ネットゲームをすればするほどお金が貯まっていくらしい。ネットゲームでいくらがんばっても一晩に10万円つかうことすら難しいからだ。
DAI氏はブラウザ三国志ははじめてだったらしいが、相変わらずの独特な重課金プレイスタイルにより、数々の革新的な発見を同盟にもたらしてくれた。
彼がまず発見したのはブショーダスで一日に引けるカードの上限が100枚であることです。正確にはブショーダスゴールドとシルバーで引けるカードの合計の上限が100枚です。BPでひく普通のブショーダスは100枚にはカウントされず無制限にひける。そして100枚のカウントがリセットされるのは夜中の0時であることも発見した。
いいかえるとブラウザ三国志は1日100枚までは有料のブショーダスをひいてもいいというルールのゲームだといえる。つまりブラウザ三国志は1日6万円までは課金してもかまわないとAQインタラクティブが決めているというだ。
ただ、ブラウザ三国志というのはよくできていて、お金を使えば勝てるというものではないし、また、お金さえあればお金が使えるわけではない。1日100枚ひくのはシステム的な限界だが、別にお金だけもっていても100枚引けるわけじゃないのだ。なにがボトルネックになるかというと、カードを全体で100枚しか持てないため、カードを減らす作業が必要になるのだ。とにかくカードを100枚ひくためにカードを削除する作業がとてもめんどくさい。Dailol氏は舎弟みたいな付き人がいるので、PCを2台並べて、付き人にカードを削除させているとなりで自分はカードをひきつづけるという分業を発明し、毎日100枚カードをひくことを実現した。
D社の役員連中もカードを引くのにお金は惜しまなかったが、物理的な作業が大変で1日100枚ひいた人間はいなかったのでDAIさんが発見するまではそういう制限があることには気づかなかった。
第一次許昌大戦のときにはDAI氏は奇計百計LV9まで鍛えた曹操をもっており、大活躍した。最初に武将のレベルアップの合成素材にR武将とかSR武将をつかいはじめたのもDAI氏だ。
DAI氏の加入により、D社のメンバーも刺激をうけ、ますますカードバトルは白熱していくこととなる。
眠らない男、KSK
最終的にはドワクエで一番課金したといわれるのはKSKだ。彼もMasakeやDAIと一緒に数々のネットゲームで活躍し、数々の眠らない伝説をつくっている。
とにかく24時間プレイし続けることで有名な人間らしい。DAI氏の家にあそびにいったとき、そこにあったエバークエストをその場ではまってしまい、そのまま72時間プレイしつづけて最終的に救急車で運ばれたという伝説を持っている。
ドワクエの数々の戦争でも24時間戦い続けるプレイヤーの代表として大活躍した。現在、2期目だが、彼はコスト3の武将で覇道9を6枚、神速9を3枚もっている。覇道9をつかえば、どんな領地も一回の攻撃で占領可能で、神速9により投石機は普通の軍勢と同じ速度で飛んでくるのでまったく気づかれない。戦争開始1時間とかで隣接しているほとんどの敵を単独で壊滅させる力をもっている。しかもそんなカードを持って24時間戦うのだからたまったものじゃない。
ドワクエのCIA、GULF
Masakeは偵察に特化したプレイヤーの育成が必要だと考え、GULFにその任務を命じた。彼は最後まで斥候と斥候騎兵だけをつくりつづけた。
ゲーム開始2週間後の対土佐、魏武戦では、相手がまだ斥候を開発していないのか、ほとんど斥候がいないのに対し、すでにGULFは150の斥候部隊をもっていた。その後の対m-SRFV戦のときには斥候部隊は4000に膨れ上がっており、ゲーム終盤では13000の斥候騎兵が暴れ回った。13000の斥候騎兵に偵察されたログを見たときの敵の絶望と悲しみを想像するとこちらまで胸が苦しくなる。彼の前にドワクエの敵となった同盟の諜報部隊はほとんど全滅させられることとなる。
電撃戦とスクエニからの突然の刺客
12月19日頃、ドワクエは進撃を開始した。
ターゲットは土佐、魏武だったが、通り道にいたということとどうも動きが不穏な気がするというだけの理由で機動六課も攻撃の対象にくわわった。ドワクエひとつで3同盟相手に戦争をしかけたことになる。
緒戦は完全にドワクエの完勝ペースだった。
魏武の元盟主と土佐の盟主補佐はあっというまに陥落し、土佐の盟主も陥落寸前まで追い込んだ。相手の領地と拠点にこちらの偵察ははいるが、敵からの偵察はすべてブロックした。剣兵もドワクエは最高レベルまで武器を鍛えているのに、敵は防具がおそらくまったく鍛えてないらしく、同じ数の剣兵が戦ってもドワクエの被害は相手の3分の1だった。
戦線は対魏武の許昌(0,0)周辺と対土佐の2正面作戦だった。対魏武はとりあえずMasakeほか2名の少数精鋭で魏武の戦力をくぎづけにする囮で、その間にまず土佐を陥落させ、つぎに魏武を滅ぼすという作戦だった。
ここでだれも予想していなかった、いや、予想すべきだった事態が発生することになる。
30以上の砦をつくっておきながら、戦争に参加したのが10人ちょっとしかいなかったのである。
砦を建設しはじめた、まさに12月16日に発売されたファイナルファンタジー13が原因だった。
軍師Masake:「FF13のせいで戦争に参加するプレイヤーの数が足りません。特にD社の社員の稼働が悪すぎます。もともとあまり期待していませんでしたが、いくらなんでも、これじゃ、かんじんなところで数で負けてしまいます」
D社の場合、ドラクエ、ファイナルファンタジーの新作(近年ではラブプラスも加わった)が発売されると、特に開発部隊ではプレイしないと職場の話題についていけないという現象が発生する。
ブラウザ三国志は会社の仕事ではないという建前もあるためFF13をやめろと命令するのはできなかった。
盟主かわんご:「社員に無言のプレッシャーを与えるにしても、冬のボーナスも支給されたばっかりとあっては打つ手がない」
結局、土佐の盟主ライト攻略も車の数が足らずに陥落させられないまま土佐は盟主をマイセンに交代することに成功してしまう。
一発逆転をかけた奇襲
土佐攻略作戦の失敗である。このままでは長期消耗戦に突入してしまう。長期化すると数では相手が有利だ。ここで土佐同盟のリークから和平の提案がきた。
盟主かわんご:「どうする?和平したほうがよくない?」
軍師Masake:「まだ、方法はあります。土佐はひとつミスを犯しました。盟主を交代するのであればわれわれが攻めれないぐらいに遠い同盟員にすればどうしようもなかったのですが、新しい盟主マイセンはそれほど離れてはいません。マイセンを陥落させれば土佐はわれわれの配下です。」
盟主かわんご:「とはいえマイセンまでも多少、距離あるし、結局、せめてもその間にまた別の盟主に交代して逃げられちゃうだけじゃないの?」
軍師Masake:「土佐もそう思ってマイセンを盟主にしたのでしょうが、ひとつ素晴らしい策があります。これをご覧ください」
Masakeは、土佐の配下から救出して仲間にしたちえみからの書簡をみせた。なんとマイセンの隣接領地をもっているアローキャリーはちえみの友達で味方をしてくれるとのことだった。
軍師Masake:「アローキャリーを足場にすればマイセンを電撃戦で落とすことが可能です。」
ただちにマイセン攻略作戦が立案された。ドワクエが攻撃直前にアローキャリーの領土を破棄してもらい通路をつくってもらう。アローキャリーは事前に本拠地の兵を空にしておき、あっさりドワクエの配下になる。そうすると24時間の間は保護期間となりマイセンの隣接領地を土佐は攻撃できなくなる。その間にマイセンの隣接領地を拠点化して、保護期間が終了した瞬間に篭城をすれば合計29時間の間、マイセンの本拠地を攻撃可能になるという計算だった。
作戦は半分以上うまくいきマイセン本拠地への攻撃も成功し、守備兵を壊滅させることに成功した。
後続して、車の群れがマイセンの本拠地を襲う。
ところが、あと一撃、車で攻撃できれば陥落させられるというところまでいくが、やはりFF13の影響で参加者が足りず、結局、陥落させることができなかったのだ。すぐさま第2次総攻撃をおこなうが、そのときにはもう土佐の他のプレイヤーからの援軍が到着しており第2次総攻撃も失敗した。
軍師Masake:「残念ながら、もう打つ手がありません。土佐は冷静な指揮官がいますね。無駄な抵抗はせずに盟主の援軍だけに集中していてこちらの主力もいったん壊滅しました。まあ、あれだけ砦を集中してたてているので、われわれが負けることはありませんが、勝つこともできないでしょう。長期戦でひとりずつ敵を落としていって、土佐、魏武を滅ぼすしかありませんが、それでは他同盟に差を付けられてしまって天下統一どころではなくなってしまうでしょう。停戦すべきです」
盟主かわんご:「いったん和平の提案を蹴っておいて、作戦が失敗したから和平してくださいというのも格好わるいな。ここはいさぎよく降伏しよう。すこしぐらい盟主らしい仕事をするか。停戦交渉は俺がやることにする」
さっそく土佐の外交担当リークに降伏文書を送った。すぐに返事があり具体的な降伏条件のつめはIRCでおこなうことになった。
和平交渉
ドワクエ内部で事前に話し合いをおこなった結果、とにかく土佐との戦争に協力してくれた、ちえみとアローキャリーを見捨てることだけはできないという一点だけは譲れないポイントとして要求することになった。ただ、これはかなり虫のいい要求なので、そのかわりにドワクエが土佐の支部同盟になるという提案をすることになった。
軍師Masake:「それでいいでしょう。われわれは天下統一する過程を祭りとして楽しめればいいのであって、ゲームシステム的な勝者は土佐に譲っても別にかまいません。土佐と組めれば第9サーバでの天下統一も狙えます。今回魏武の同盟国としての頼りなさは土佐もわかったでしょうから、魏武のかわりにドワクエと組んだほうが土佐にとってもメリットあるのはわかるでしょう」
しかし、土佐との交渉は難航をきわめた土佐、魏武の内部での意見が和平派と強硬派に分かれて収拾がつかなかったからだ。
ドワクエ内部では激戦を戦った土佐に対して敬意がめばえていたのだが、土佐内部ではかならずしも全員の意見が一致している訳ではなく、ドワクエが信用できなかったらしい。
盟主かわんご:「ぶっちゃけブラウザ三国志時間かかりすぎだし。こんなに集中して3ヶ月も戦っていたら、仕事に影響がでかすぎる。いい機会だから、うちがそこまで信用できないなら土佐の配下同盟になっていいという提案をしよう」
軍師Masakeから配下同盟のまま同盟ランク1位でゲームクリアした例も過去あったという話をきいていたのでそういう道も魅力的だったというのもあった。配下同盟として土佐の名前を名乗ってあちこちの同盟に喧嘩を売りまくったり、NPC城を攻略したりして、飽きたらゲームやめるぐらいで十分に楽しそうじゃんと思ったのだ。
残念ながら、交渉相手の土佐のリーク氏はこちらの提案を、なんていさぎよい態度と褒めたたえるばかりで本当に配下同盟になりたいという希望はまったくとりあってくれず、ちえみ、アローキャリーの生存権もかなり譲歩してくれた形で和平は成立した。
ドワクエ同盟は攻撃用の砦を全部破棄して許昌付近から撤退し、ここに第一次許昌大戦はドワクエの降伏というかたちで終結する。
以後、破れはしたもののドワクエ同盟は過去に類をみない凶悪な武闘派同盟として恐れられることとなり、一方、土佐同盟はドワクエに対抗できる唯一の勢力として名声を高め、ドワクエと土佐の2つの超大国が第9サーバの覇権を巡って、ブラウザ三国志の歴史に残るハイレベルの勢力争いを繰り広げることとなるのであった。